意地悪上司に求愛されています。（原題 レア系女史の恋愛図鑑）

「やっぱり、君はいいね。木島君の言うとおりの人だ」
「え……？」
「営業事業部課長、菊池くんを君のところから引き抜いていいだろうか？」

　今日から菊池くんは私の秘書で、となんとも勝手なことを言い出した専務に、私の直属の上司ではなく、木島が口を挟んだ。

「ダメですよ、専務。彼女は貴方の秘書にはさせません」
「それは木島君が決めることではないだろう？　それに木島君は愛しい菊池女史を他の男の近くに置いておきたくないだけだろ？　心が狭いなぁ」

　ニヤニヤとどこか内情を知っている様子の専務は、木島を刺激し続ける。
　そのやりとりを見て、重役たちは忍び笑っている。

　ムッとした表情を浮かべる木島に、専務はいたく楽しそうだ。

「まぁ、いい。菊池くんは今まで通り営業事業部で活躍してもらうことにしよう」
「……ありがとうございます」
「だから、隠し持っている辞表は今すぐ捨てなさい。いいね？」
「っ！」

　言葉をなくす私に、専務はこれまた楽しげに言う。

「慰労会の費用は私のポケットマネーで出すから、それで許してくれ」
「了解しました。ですが、うちの部下たちがそれで納得するかどうかは、専務に掛かっているかと思われます」

　シレッと答える私に、専務は一瞬固まったが、大きく頷いて「善処しよう」と笑ったのだった。