お口を開けて
「三井さん、治療の経過を記録するために、お口の中の写真を撮りますね」
歯痛の原因については明確に告げないまま、何やら唇に器具をはめられて、歯が丸見えになるくらいに口を強制的に大きく開かされる。そして、どこからか大きなカメラを持ち出した先生は至近距離からシャッターを切った。フラッシュが光って、とにかく眩しい。
「はい、噛んで、次、開いて」と淡々と指示を出しながら、何やら固い板状のものをを口に差し込んではシャッターを切っていく。その繰り返し。
「では、一度起き上がってください」
言われるまでもなく、電動イスの動きと共に体が起き上がっていく。と、同時に目の前の水受けに置かれた紙コップに自動で水が注がれていく。
「次はレントゲンを撮りますので、お口をゆすいだら、こちらへお願いします」
急いで口をゆすいでから、促されるままに個室へ入る。イスに掛けるや否や、口の中にスポンジのようなものを咥えさせられ、やたら重いエプロンを首に掛けられる。
レントゲンくらいは撮ったことがあるけれど、歯のレントゲンなんて初めてだ。思わずキョロキョロしたくなって首を少しだけ動かしたら「そのまま動かないで」と注意を受けた。
スポンジを挟み直し、機械の向きを変えてから、先生が扉の外へ出て、その後に小さな電子音が鳴る。
それを何度か繰り返すうちに、どうやらレントゲンを撮り終えたらしい。
重いエプロンを外して扉の外に出ると、また元の治療ブースへと戻された。
(どうか、虫歯じゃありませんように…)
この時の私は、僅かに残った希望に必至にしがみついていた。