沈黙の境界線
刹那
雲の隙間から燃えるような紅い空を瞳に焼き付けながら
少しだけ遠くに聞こえるパトカーのサイレンの音を
住宅街に囲まれた小さな小さな公園で一人、絢香は耳を塞ぎ
それでも神経を研ぎ澄ませて聞いていた。
パーカーのポケットの中に残される110番の通話履歴。
頭に浮かぶのは
愛しい
愛しい
恭吾の優しい笑顔。
愛しいからこそ裏切った。
愛しいからこそ裏切るしかなかった。
遅かったとしても・・・
彼の優しい笑顔を燃え尽きた灰にするわけにはいかなかった。
「ラテ。君だけは俺を見捨てないで?」
震えように囁いた彼の言葉が
鮮明に耳に残る。
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