沈黙の境界線
「心配しなくていいから」
振り返らずに、ようやくノブを回して開けたドア。
解放されたその向こうから鮮やかな太陽の光が射し込んで
思わず見上げた空は、雲ひとつない透き通った青空が広がっていた。
部屋の小さな窓から見るのとは違う。
つい数ヶ月前までは当たり前のように見ていた空が、こんなにも大きいものだったかと、不思議にさえ思えた。
春の風が鼻をくすぐる。
それはまるでさっきまで小さな箱庭で震えていた私の弔いのようにさえ感じるほどの心地よさ。
ここから一歩踏み出せば
モカがいてくれているはず。
モカがいる。
それでも足取りは重かった。
だけど確かに一歩ずつゆっくり
久しぶりに踏み出した。