沈黙の境界線
「私のこと信じていいよ」
彼を裏切るということは
私自身を裏切るということ。
そんなことできるわけない。
すると、ようやく安心したように微笑んだ彼は私の肩までの髪を一度その指先で撫でると
この沈黙を愛おしむように優しく微笑む。
「恭吾。それが俺の名前だよ。」
「恭・・・吾。それがモカの本当の名前なんだね・・・?」
彼の名前を呟いた私を、そっとその腕で抱き寄せる。
まるで、甘えん坊の子供が母親にすがるように。
私を抱き締めても
落ち着いたままの恭吾の鼓動と
少しだけ早いリズムを打つ私の鼓動は
これだけ近くにいても
重ならない。
交わらない。
でもきっといつか
私達の鼓動がピタリとすいつくように重なる日が来ればいいのに。
なんて
思ってしまう私がいた。