沈黙の境界線
これが恭吾にとっての母親との思い出だとでもいうように・・・
恐くて震える指先で
その背中に触れると、顔だけ少し振り向いた
悲しい瞳と重なった。
「恭吾は・・・
お母さんが憎い?」
「憎いよ。殺してやりたいくらいに憎い。
自分の幸せのためにしか要らない俺を産み落としてゴミのように扱うあの女が憎くてたまらないよ。
でも
もう抵抗もできないガキじゃない。」
そう言い振り返った恭吾は
そのまま
私を強く抱き締めて囁いた。
「あの女がいなくても
俺にはもうラテがいるから・・・」
その言葉の裏にどんな感情が隠されているのかは分からなかった。
彼をよく知らない私に分かってるたった1つの事は・・・
彼が
恭吾が今
私を求めているということだけ。
それはきっと
恋心でも
愛とも違うだろうけれど
彼が今
私を必要としてくれている事だけは
その力強い腕が
どんな言葉よりも素直に
伝えてくれた。