沈黙の境界線
恭吾の服の裾を掴んでいた私の手を
優しく離した彼は
「小さな公園の近く青い屋根。
村上恭吾。」
自分の家の住所と特長を口にした。
別れの瞬間に
なぜ
彼が自分の家の住所を私に教えたか分からなかった。
さよならも言わずに歩き出した恭吾に手を伸ばして
そして
静かにその手を下におろした。
引き留めても
振り返ってくれないことを
あの時の私は分かっていたのかもしれない。
お昼を過ぎるまで
ただずっと
考えていた。
もう会えないと言っておきながら自分の住所を教えてきた矛盾した恭吾の行動を。
そして
夕方
秋の風が窓を叩いて
ふと
淋しがりやな恭吾の一語一句を思いだし
私は慌てて外へ飛び出した。