ナイショの恋人は副社長!?
その頃。敦志からの着信も切れた携帯は、ヴォルフが手にしたままだった。
「は、離してください」
キッと睨みつけるような視線を送り、優子が自分の右手を引く。
けれど、がっちりとヴォルフに掴まれた手首は、簡単に解放はされなかった。
「嫌だ、と言ったら?」
驚きは見せたものの、そこまで混乱する様子を見せない優子は、グッと拳を作り、ヴォルフを見上げる。
「あのメールは、嘘だったんですか」
問い質されたヴォルフは、敵対心を露わにする優子の目を見て微かに笑った。
「……ちょっとだけ、細工させてもらったかな」
「どうして、そこまでして……」
「その答えはカンタンだ。君が魅力的だから」
あっさりと口にした答えは、優子には理解しがたいものだ。
一瞬大きくさせた目が、すぐに冷静な目つきに変わる。
優子は、泣くでも叫ぶでもなく、至って淡々とした口調でヴォルフに言い返した。
「……ドイツ語が話せる女性は、他にたくさんいると思います。なぜ、なにも取り柄のない私なんか」
傍から見れば、体格差もあり、利き手も拘束されている優子が不利だ。
それでも、優子は怯むことなく真っ直ぐと立ち、ヴォルフと対峙し続ける。
好戦的な優子に、ヴォルフは頼もしさを覚え、ニコリと笑った。
「そんなキミでも、俺への返事ひとつで失うものはあるって思わないかい?」
優しい顔で、口にした内容はあまりにギャップがある。
しかし、ヴォルフはにこやかに話を続けた。
「別に、今回の契約は藤堂じゃなくてもいいんだよ。同じような会社は、いくらでもあるわけだし」
挑発的な青い瞳に、さすがの優子も目を揺らがせた。
やはり、優子は自分のことよりも、会社や敦志を引き合いに出される方が冷静でいられなくなるのだ。