ナイショの恋人は副社長!?
それでも、懇願することもせず、優子は再びしっかりとした目でヴォルフを見つめる。
射るような優子の眼差しが、ヴォルフをゾクリと粟立たせる。
その感覚に、ヴォルフは、自分の目に狂いはなかったと改めて認識した。
そして、ますます優子を手元に置いてみたくなる。
「それに、キミに取り柄がないだなんて思わない。むしろ、何かあると感じる。一見、か弱そうな、どこにでもいる女の子なんだけどね」
優子の視線はヴォルフから動かないが、それは、単に睨みつけているだけではなかった。
なにかのタイミングを計っているような雰囲気だ。
それに気づかないヴォルフは、優子への説得を続ける。
「今日、定時間際にも見ていたよ。近寄りがたい風貌の男性に対しても、全く動揺をみせなかった。……今と同じように」
今日の仕事の姿から見られていたのかと驚きつつも、やはり優子は頑として表情を変えない。
「――その目だ。揺るぎない、正義の目」
愉し気に目を細めてヴォルフが言うと、優子は低い声で問う。
「……だったら。こんな脅し、私が許すとでもお思いですか?」
「だから、だよ。キミは人を犠牲になんか出来ないだろ? それは、会社にしたって同じはずだ」
さすがの優子も、『犠牲』という言葉を聞いて、目を僅かに見開いた。
それを見たヴォルフは、勝ち誇った顔で、ようやく優子の手を離す。その手を次は、優子の顎に添えた。
前屈みになり、顔を近づけたヴォルフが至近距離で囁く。
「悪いようにはしないよ。ただ、キミを俺のものにしたいんだ」
この誘いを断れば、会社が損失をする。
家族や敦志は気になるけれど、現状として、自分が日本や今の会社に留まらなければならない理由は存在しない。
(……だとすれば、首を縦に振れば丸く収まる)
優子の考えが、ヴォルフの策略通りに流されそうになった、その時。