ナイショの恋人は副社長!?


優子がオフィスに着いていた頃には、すれ違いで敦志がホテルに到着していた。
 
タクシーを降り、ドアマンの声掛けもスルーしてロビーへと飛び込む。
人が行き交う広いロビーを見渡すが、ヴォルフの姿が見えない。

フロントへ尋ねたところで、個人情報の問題から、簡単には教えてくれないだろう。
 
敦志は逸る心を抑えきれず、ラウンジの隅々まで足早に歩いて回る。
その先に、カフェを見つけた敦志は、迷わずに足を踏み入れた。

ここでもウエイターを無視し、真っ先に店内を見渡す。
窓側のカウンター席に金髪男性の後ろ姿を見つけると、ウエイターの制止もきかず、一目散に駆け寄った。

「Treffen Sie Yuko ohne meine Erlaubnis nicht!(俺の許可なく彼女に接触するな)」
 
低い声でヴォルフの背中にドイツ語を投げかけた敦志に、ウエイターが待ち合わせだと勘違いをして持ち場に戻る。
 
ヴォルフは特段驚く顔もせず敦志を振り返ると、再び顔を戻して答えた。

「やけに威勢がいいな。社長(トウドウ)の後ろに控えてたヤツと同一人物とは思えない」
 
クスッと笑い、優雅にコーヒーを口にするヴォルフに、敦志は今にも掴みかかりそうな勢いで問い質す。

「そんなことより、優子さんはっ」
「さぁね」
 
ヴォルフの笑みが意味深に感じてしまう敦志は、居てもたっても居られなくて、携帯を内ポケットから取り出した。

「それはムダだよ。オレと電話したいなら別だけどね」

ヴォルフは敦志に嫌味を言いながら、優子の携帯を見せびらかす。
それを受けた敦志は、ギリッと奥歯を噛み、いっそう焦る表情を浮かべた。

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