ナイショの恋人は副社長!?
「なんで、そんなに必死になる？　不安である要因の俺は、ここにいるのに」
　
ヴォルフは敦志を見て、純粋にそう疑問が湧いた。それに対し、敦志は口を噤んだまま。

まさか、ヴォルフが監禁などしているわけがないと思いつつも、優子の姿を見るまで安心しきれずにいた。
すると、ヴォルフが思い出したようにぽつりと口にする。

「それとも、他に何かあるのか？　だとしたら、さっきのヤツは見間違えじゃなかったのか」
「さっきの……ヤツ……？」
　
首を傾げるヴォルフに、敦志の胸がざわついた。

「ああ。初めはサオトメだと思っていたんだけど違う男だったし、偶然、同じ方向なんだと思ったんだが」
「……いったい何の話だ？」
　
眉間に深い皺を刻み、目を細めてヴォルフを見る。
敦志の視線を受けながら、ヴォルフは真面目な顔で顎に手を添え、続けた。

「さっき、ユウコと乗ってきたタクシー。その後ろをつけられてる気がして、サオトメかと思ったんだが……」
　
ヴォルフの言葉を耳にしながら、敦志の顔色はみるみるうちに青くなる。

「その男は、その後どうした⁉」
「え？　いや、だから、ユウコと同じ方向に……」
「どんなヤツだ⁉　服装は？　見た目は⁉」
「おい、落ち着けよ。ユウコは、キミに会いに行ったんだろう。だったら、思い当たる場所はないのか？」
　
さすがのヴォルフも戸惑った声を出し、立ち上がって敦志を見た。
　
その怪しい人物に、心当たりがあるわけではない。しかし、敦志の中で、優子は謎だらけだ。
　
それが不安材料でもあり、何かよからぬことが起きそうだとわかっていたから、一線を引くような態度を取られていたのかもしれないと思った。

「――オフィスだ！」
　
敦志は一瞬考えた後に、弾かれたように顔を上げて言う。
直後、店内の客をすり抜けて走って行く。
　
ヴォルフは敦志の反応に優子が気になって、急いで後を追い掛けた。

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