ナイショの恋人は副社長!?
心の中で、そう言った瞬間。敦志は目の前で起きた一瞬の出来事に、目を奪われる。
後方から素早く距離を詰めた優子が、振り上げかけた男の腕を捕えた。
瞬く間に腕の関節を取ると、二秒の間にスパッと払い腰で男を投げる。
背中から転ばされた男が痛みに顔を歪めたところに、優子は真上から右の拳で突こうとし、反射で男が目を閉じると、優子はそれを鼻先で寸止めする。
空気を切るような突きを音で感じた男は、その後、思ったような衝撃がこなくて目をそっと開いた。
「……く……っ」
目前の優子の拳にひと声漏らし、驚き固まる。
もうひとりの男は、それを見て圧倒されていたが、一拍置いて我に返ると優子に殴り掛かった。
「優子さんっ」
敦志の声かけよりも僅かに早く、優子は後方にいた男の行動を察知し、体勢をその男に向けて立て直した。
男の右手の拳が、優子の顔をめがけてやってくる。
しかし、優子はそれに怯むどころか一歩前へ踏み出して腕を捕え、かわしながら男の勢いを利用して引き崩す。
「ぐっ……」
うつ伏せの状態で、利き手を後ろに回されて拘束される男は、苦し気な声を漏らした。
初めに投げられた男が起き上がると、優子はキッと鋭い目を向ける。
すると、逃げるように後退ってひとこと呟いた。
「な、なんだよ、こいつ……こんな話、聞いてないっ……!」
足をもつれさせながらも、男は敦志を横切り逃げ出していく。
優子は、その様子を見て、もうひとりの男の手も離す。
その男も、優子を睨みながらその場から走り去っていった。
暗い路地で、優子と敦志はふたりきりになる。