ナイショの恋人は副社長!?
優子は、『やってしまった』と唇を噛み、敦志をまともに見ることが出来ずにいた。
敦志はというと、さすがに目の前で起きたことに驚きを隠せず、目を大きくさせている。
(副社長に見られた……。だけど、こうするしかなかった)
優子は、なぜかは不明だが、絡まれた男たちのせいで敦志を巻き込むわけにはいかないと思って動いてしまった。
自分が何か問題を起こしても、会社的にはそう大きなことにはならないだろう、とあの短い時間に咄嗟にそう判断した。
敦志が未だに何も言えずに固まっていると、優子が視線を落としたまま乾いた笑いを漏らす。
「……驚きましたよね」
優子の言葉に、敦志は言葉を選んでいるのかすぐに返答できずにいた。
「私の実家、誠道塾という流派の空手道場で……小さい頃から高校まで、私も父親に習っていたんです。だから、こんな時、つい身体が動いてしまって」
俯いて小さく笑いを零す優子だが、その目は笑ってはいない。
むしろ、今にも落ちてしまいそうなひと滴が、優子の下睫毛に辛うじて乗っている。
それに気づいた敦志は、優子に一歩近づいた。
それに気づきもしない程、優子は必死でこの場を取り繕っていた。
「今さら白状しますと、副社長に初めて声を掛けていただいた時も、そうだったんです。ファスナーが壊れるくらい、横蹴りを披露しちゃって」
優子は、笑うことで、泣くことを堪えている。
黙ってしまうと途端に涙が溢れそうで、次々と言葉を重ねた。
「こんなところで人を投げるくらいなら、大人しく父親の言うことに従って、道場(うち)に帰った方がいいですよね」
「わかってるよ」