ナイショの恋人は副社長!?
「ヴォ、ヴォルフ……!?」
 
敦志は、ここまでついてきていたヴォルフが少し前からいなかったと、今になって気づく。
目を剥いてヴォルフを見上げ、質問する。

「今までどこに」
「この子。そこの影から見てたよ」
 
敦志の言葉尻に被せ、ヴォルフがそう言ってひとりの女を突き出した。
腕を引っ張られてきた女に、敦志はさらに目を大きくする。

(この子は……確か、この間、社で見掛けたような)

「この間、ユウコを囲んでた女のひとりだ」
 
ヴォルフに言われ、敦志はハッとして思いだした。
 
以前、ヴォルフが優子に会いにきた場面に遭遇した直前に、エレベーターホールで見掛けた三人の女子社員。
その中のひとりだと、記憶を辿って一致させる。

「もしかして、あの男たちを仕込んだのは」
「しっ、知りません! 私はたまたま……っ」
「動きや声に動揺が見られる。目も全く合わせられていない。今のあなたは、どう見ても嘘をついているようにしか見えませんが」
 
背にはヴォルフ、目の前は敦志に阻まれた女は、鋭い指摘に閉口し、目を泳がせる。
それでもなお、言い逃れをする方法を思案していると、敦志が畳みかける。

「先程、片方の男が『こんな話、聞いてない』と漏らしていた。それは〝首謀者〟が他にいるということだ」
 
抑揚のない声で淡々と言い、最後は一層声を低くする。

「あとから知れる方が、罪は重くなりますよ」
 
敦志の冷たい目と声は、女を戦慄させた。


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