ナイショの恋人は副社長!?
*
「誰かが代わりに退職を願い出るだなんて。そんなおかしな話はないだろう。サオトメは、何か心当たりはないのか?」
タクシーが走り出してしばらくして、ヴォルフが先に口を開いた。
敦志は車窓を眺めながら、密かに奥歯を噛みしめる。
(そんなもの……あるならとっくに対処してたし、こんなに焦ることもない)
ヴォルフの言葉に、さらに焦燥感を煽られ、不安が立ち込める。
何も答えない敦志を横目で見たヴォルフは、静かな車内で溜め息を吐いた。
「キミの気持ちは、その程度だったのか」
嘲笑うように言われた敦志は、言い返すこともできずにただ拳を握り締める。
そのうち、優子のアパートに到着し、敦志は一番にタクシーを降りて玄関へ足早に向かった。
優子の部屋に辿り着く十数メートル手前で、何か足元に落ちているものに仄暗いアパートの照明があたっていた。
敦志は眉をひそめ、地面にあるものにゆっくり歩み寄る。
「ノート……?」
身体を屈め、一冊の小さ目のノートを拾い上げた時に、着信音が鳴り響いた。
敦志は、ノートの表紙や裏表紙を眺めながら電話に出る。
「はい。早乙女です」
『芹沢です。お待たせして申し訳ありません。インフォメーションの今本さんに連絡が取れました』
ベージュ色の表紙のノートに視線を落とし、芹沢に淡々と尋ねる。
「そうですか。それで、何か有益な情報はありましたか?」
『いえ……。ただ、彼女が言うには、あんなに勤勉な人が、退職を考えていただなんて信じられない、と』
「誰かが代わりに退職を願い出るだなんて。そんなおかしな話はないだろう。サオトメは、何か心当たりはないのか?」
タクシーが走り出してしばらくして、ヴォルフが先に口を開いた。
敦志は車窓を眺めながら、密かに奥歯を噛みしめる。
(そんなもの……あるならとっくに対処してたし、こんなに焦ることもない)
ヴォルフの言葉に、さらに焦燥感を煽られ、不安が立ち込める。
何も答えない敦志を横目で見たヴォルフは、静かな車内で溜め息を吐いた。
「キミの気持ちは、その程度だったのか」
嘲笑うように言われた敦志は、言い返すこともできずにただ拳を握り締める。
そのうち、優子のアパートに到着し、敦志は一番にタクシーを降りて玄関へ足早に向かった。
優子の部屋に辿り着く十数メートル手前で、何か足元に落ちているものに仄暗いアパートの照明があたっていた。
敦志は眉をひそめ、地面にあるものにゆっくり歩み寄る。
「ノート……?」
身体を屈め、一冊の小さ目のノートを拾い上げた時に、着信音が鳴り響いた。
敦志は、ノートの表紙や裏表紙を眺めながら電話に出る。
「はい。早乙女です」
『芹沢です。お待たせして申し訳ありません。インフォメーションの今本さんに連絡が取れました』
ベージュ色の表紙のノートに視線を落とし、芹沢に淡々と尋ねる。
「そうですか。それで、何か有益な情報はありましたか?」
『いえ……。ただ、彼女が言うには、あんなに勤勉な人が、退職を考えていただなんて信じられない、と』