ナイショの恋人は副社長!?

「Egal was kommt ich werde dich nie verlassen.（何が起こっても、決して私はあなたを離さない）」
　
ヴォルフの手よりも先に優子の手首を握って引き寄せたのは――。

「サオトメ……ッ」
　
寸でのところで優子を掻っ攫われたヴォルフは、悔しい思いを滲ませた声を出す。
ヴォルフの嫉妬の視線に目もくれず、敦志はただ優子だけを見つめる。

「Ich denke nur an dich. Erzählen Sie mir deshalb die wahre Absicht（オレはあなたのことばかり考えてる。だから、本音を教えて欲しい）」
　
さらには腰に手を回された優子は、驚きのあまり、声も出せずに大きな目で敦志を見上げる。
その瞳に映る敦志は真剣な顔つきで、まるで恋人同士のように錯覚してしまうほどだ。

（『本音』……って。だって、それを言ったところでどうにも……）
　
敦志の手に捕われながら、優子は目を揺らがせる。

小さい時に些細なことで虐められていた。それを乗り越えるために、強くなったはずだった。
だが、今度は空手が原因で偏見と勘違いをされて、結局周りに敬遠されることになった。

――ヒーローなんかいない。

そう思っていたし、今でも思っていた。
だから、自分が強くなるしかなくてその道を選んだけれど、なぜかすべては上手くいかなくて。

ならば、と、自分の感情をコントロールすることは出来るようになった。

だけど、ほんの少しだけだけ……。
そんな人がいたなら、自分を連れ去ってほしいと願うこともあった。
　
現実にはあり得ないとわかっていたけれど、おとぎ話のように力強く、優しく奪ってくれるような誰かが表れるという願望を。
　
自分で自分を守ることに疲れてしまった時くらい、甘やかして守ってくれるような誰かを。
　
敦志の深い色をした瞳に引き込まれるように、優子は小さく口を開く。

「……私を、攫って……！」