ナイショの恋人は副社長!?
こんな時でも自分本位なところは変わらなく、そんな父親に優子は辟易して言い返す。
自分だけならまだしも、さらに敦志まで巻き込もうとする武徳に憤りを感じていた矢先、道場に迷いのない真っ直ぐな声が通った。
「申し訳ありません。私には、こちらの道場を継ぐことはできません」
武徳は、頭を下げた敦志を憮然たる面持ちで見据えている。
その視線に負けることなく、敦志は終始堂々として言葉を続けた。
「私には、会社(社長)が……大切な家族がいるので」
そう言った声は、本当に深く重みを感じるようなもので、優子は敦志の後ろ姿に真剣な眼差しを向ける。
(副社長の社長に対する忠誠心って、普通とは違う気がする。やっぱりふたりはなにか特別な間柄だったり……?)
優子は、前に偶然聞いてしまった敦志と純一の会話を思いだした。
互いに名前で呼び合い、会話の内容も互いを思うような個人的感情があったように感じられたことも。
そして優子は、その流れで敦志と親しい関係でありそうな〝加奈子〟という女性の存在も思い出しては胸が締め付けられた。
「あれだけお世話になった師匠に、失礼ばかりで申し訳ありません」
気づくと両膝を床につき、頭を下げる敦志の姿があった。
憧れの副社長に跪かせてしまった状況に優子はひどく動揺し、困惑する。
しかし優子は、それ以上に驚く言葉を耳にする。
「でも、どうしてもお許し願いたいのですが……優子さんを連れ帰ることを承諾していただけませんか?」
(今……なんて……?)
ぽかんと呆けた顔でいる優子をよそに、敦志は嘆願する。
「すでに我が社に必要不可欠な社員なのです。それと、個人的にも」