ナイショの恋人は副社長!?
優子は背筋を伸ばし、凛々しい顔つきに変わり、その変化を目の当たりにした敦志は目を奪われる。
「こんなこと言うのは、身の程知らずだと承知してます。だけど……自分の気持ちと向き合って、嘘をつきたくないので」
ひとつひとつ丁寧に言葉にし、最後にすぅっと息を吸った。
「副社長が、好きです」
目を逸らさずに自分の気持ちを伝えるというのが、これほどまでに緊張するものだとは思わなかった。
今まで空手の試合や就職試験などを経験してきたが、その比じゃないと優子は思う。
「あ……その、すみません。本当、言いたかっただけなんです。困りますよね。副社長には大切な彼女さんもいらっしゃるようですし」
さすがに凛然とはしていられなくて、途端におどおどと目を泳がせ、言葉を濁す優子に敦志は目を瞬かせる。
「彼女?」
「え……あ、はい……。前に十五階で居合わせてしまった時に聞こえてしまって」
「ごめん。ちょっと理解できないな。どんな会話?」
「え?」
告白の動悸も冷めやらぬうちに、首を傾げる敦志に困惑する。
確かに聞き間違いではなかったはず、と優子は口にするのも苦しいことだが、たどたどしく説明した。
「あの……社長との会話で。加奈子さんが食事を作って待ってる、というようなことを仰られていたので……副社長?」
自分で口にすると改めて胸を打ちひしがれる思いになる。
しかし、後半から敦志が考え込むように左手を顎に添える姿が気になって、今度は優子が首を捻った。
すると、敦志がぽつりと口を開く。
「……それは、多大なる誤解を招いていたようだね」
ようやく顎から手を外した敦志は、落としていた視線をゆっくり優子に向ける。
視線がぶつかると、そのまま真剣な目で言った。