ナイショの恋人は副社長!?
「あ、ここだ!」
辺りをきょろきょろとしながら辿り着いた場所で、優子はそう言って笑顔になる。
いつもなら、食堂か、天気が良ければ近くの公園へと出向き、弁当を広げる優子だが、今日は違った。
ひとつだけ、ぽつんと置いてあるふたり掛け程度のベンチ。
それに腰を下ろすと、弁当を広げることもせず、空を仰いだ。
それから、ゆっくりと視線を下げていき、周りの静けさにホッとする。
昨日、敦志を待って、上着を返した後のこと。
敦志とはそのまま別れたのだが、なんとなくすぐに帰る気にもなれなかった優子は、ふと周りを見渡す。
普段は足を向けないその裏口からは、初めて見る景色が広がっていた。
意外に緑が多かったのだな、などと思いながら歩き進めた時に、この場所を見つけたというわけだ。
(遠くに喧騒は聞こえるけど、充分、静かでゆっくりできる)
受付に立つと、特に人の出入りが激しく、さらに常に人に見られている緊張感で疲弊してしまう。
そんな優子の休憩は、出来るだけ静かな空間で、なにも考えずにぼんやりと食事をしていた。
穴場を見つけた優子は嬉々としながら、ようやく弁当を広げ始める。
自分の膝の上に乗せた、二段の弁当箱。
優子は、蓋を開けた中身に目を落とすと、失笑した。
ゆかりご飯に、おかずは昨日の残り物の切り干し大根の煮物。
常備菜は保存できて、ひとり暮らしにも有効だと優子が好んで作る。
弁当には、もちろん他にもおかずは入れているものの、ほうれん草のおひたしや卵焼きという、地味なもの。
(こんなお弁当、誰にも見せられないな。よく言えばヘルシーなんだろうけど、あまりに質素すぎて笑っちゃう)
甘い卵焼きも、おひたしも、どれも優子は好物だ。
しかし、女心の傍ら、あまりにオシャレさのない弁当に肩を落としてしまう。
気を取り直して弁当箱を手にし、ひとくち頬張った瞬間だった。
「あ、鬼崎さん」