ナイショの恋人は副社長!?
王子様(ヒーロー)


(ああ、もう。朝から憂鬱……)
 
青々とした晴天とは裏腹に、重苦しい溜め息を吐いて、人目を気にする。

この駅から勤務先までは、目と鼻の先。
それにも関わらず、未だに辿り着かずにいる状況に、彼女はもうひとつ溜め息を落とした。
 
オフホワイトのブラウスに、紺地のスカート姿。
ベージュの鞄を肩に掛け、会社に向かうその女性は、鬼崎優子(おにざきゆうこ)。歳は二十二。

彼女は、この先にあるシステム設計や開発などを主とする企業、藤堂コーポレーションの受付嬢になって、まだ数か月。
新入社員ということで、いつも早めの出社を心掛けていることが幸いし、まだ時間の余裕はある。

(遅刻はしないとはいえ、こんな姿を誰かに見られたら)
 
優子は、チラチラと後方を気にしては、普段よりも歩幅を狭くして歩いていた。
 
なぜ、そんな不審な動きになってしまっているのかというと、不運にも、ある出来事に遭遇したからだ。
そのせいで、優子のスカートのファスナーが壊れてしまい、全開状態。
それを隠すべく、左腰にハンカチを添えて歩いてるものの、それがまた心許ないものだった。
 
誰かに見られたら困る、と思いつつも、心のどこかで誰かの救いの手を差し伸べられるのを待っていた。
けれど、かつて、助けてほしいときに、誰かが助けてくれることなどなかったことを思い出す。
 
再び重い息を吐き出すと、不審に思われない程度に辺りを窺い、気配を消しながら職場へと向かう。

――その時。


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