ナイショの恋人は副社長!?
 
敦志が去る、数時間経った昼前には、優子の体調は悪化していた。
頭痛は酷くなり、悪寒が走るような感覚までし始める。
 
優子は昨夜の自分の行動を振り返り、知らぬ間に服を脱いで寝ていたのが原因だと叱咤した。

(下着は着ていたとはいえ、布団も蹴とばして……そりゃあ風邪もひくよ。ああ、あの服、染み抜きもしないで寝ちゃった)
 
鈍器で殴られるような頭の痛みに耐えながら、考えることはそんなこと。

高価な服ではないが、優子にとっては貴重な一着ではある。
朝は朝で、寝坊をしてしまったために、言葉通り、部屋に服を投げ捨てたまま出てきてしまった。
 
優子は、部屋の惨状を思い返し、軽く溜め息を吐く。
同時に、ムカムカとした胸やけが襲ってきて、咄嗟に手を口に添えた。

「……すみません。今本さんが休憩に行っちゃう前に、ちょっと化粧室に行って来てもいいですか?」
 
優子は苦しい表情を隠し、ニコッと笑う。
今本は、その笑顔にごまかされ、朝から優子の不調を見抜けずにいた。
 
今本が承諾してくれると、優子は平静を装って化粧室へと向かう。
誰もいない化粧室の鏡の前で、「ふー」と息を吐いて項垂れた。
 
嘔吐する程、具合が悪いわけじゃない。
それでも、気分は悪いので、それをごまかすように、気休めに手で水をすくって口を濯いだ。

(マズイ。なんか、熱くなってきた)
 
鏡越しに自分と目を合わせると、険しい表情でしばらく静止する。
ゆっくり呼吸を整え、全身の力を抜いた。

本心では、もう少しここで休んでいたいくらいだが、腕時計を確認するとすでに昼の十二時を過ぎてしまっている。
 
早く戻らなければ、今本が休憩に入れないと思う優子は、重い体で化粧室を後にする。

この壁に囲まれた薄暗い道を数メートル抜ければ、大きな窓から眩しい陽射しが射すフロアへと出られる。
目を細め、その輝いたフロアに一歩足を出した時に、声を掛けられた。

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