ナイショの恋人は副社長!?
「昨日は楽しかった。それと、失望させるような発言をしてしまって申し訳ない。お詫びと言ってはなんだけど、昨日の代わりの服でも、プレゼントさせてもらえないかな?と思って」
「いっ、いえ! あれはヴォルフさんが汚したわけでは……」
 
ヴォルフはさりげなく優子の手を取り、白い歯を覗かせる。
スラリとした指先に掬われるように右手を奪われた優子は、思わず日本語で答えてしまった。

ヴォルフは日本語がわからなくて首を傾げるが、そんな時ですらも優子に微笑みかけている。
敦志はその様子から、ヴォルフは優子から簡単には手を引かないであろうと察する。
 
いつも以上に厳しい顔つきをし、ヴォルフに対し丁重に断った。

「彼女は職務中です。とりあえず、その話はまたの機会にお願いします」

表向きは柔らかな応対に見えるが、内心、敦志はヴォルフを敬遠している。

優子を遮るように一歩前に出ると、真っ直ぐヴォルフと向き合う。
どこか敵対心を感じ取るヴォルフは、敦志の視線を真っ向から受け止めた。

「ユウコ。仕事終わる頃、また来るよ」
 
ややしばらく敦志と視線を交錯させていたヴォルフが、奥に立つ優子に言葉を掛ける。
敦志の背中に隠れている優子は、遠慮するように小声で答えた。

「あ、あの……今日はちょっと……」
 
ヴォルフの誘いに、初めから乗る気はなかった。
だが、あからさまに突っぱねるようなことは立場上出来ないと考える。
 
どのみち、今日は体調不良で誰の誘いであっても厳しいだろうと頭を掠めた。
 
優子がやんわり断ると、ヴォルフは全く落ち込むこともなく、ポジティブに返す。

「OK.じゃあ、また明日にでも」
 
ヴォルフはニッと口角を上げ、あっさりと引き下がる。
その潔さに、逆に不安を感じたのは敦志だった。


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