ナイショの恋人は副社長!?
振り向くことなく、颯爽と去っていくヴォルフをふたりで見つめる。
完全にその背中が見えなくなっても、優子と敦志はその場から動かぬまま。
しかし、優子の頭の中は、ヴォルフのことよりも、目の前の敦志のことが大半を占めていた。
(副社長がなんで私を? 昨日、私を巻き込んだ責任感かな)
ピッと伸びた背中を間近で見ることが叶うなんて、と優子は恍惚とする。
頬が薄らと赤くなっているのは、発熱だけのせいではなくなっていた。
そんなことまでは気づかぬ敦志は徐に振り返り、表情を曇らせる。
「申し訳ありません。昨日、お付き合いいただいたせいで、こんなことに」
(ああ、やっぱり責任を感じているんだ)
熱で頭がボーッとし始めた優子は、立っている感覚がなくなっていく。
夢の中にいるような、ふわっとした思考で敦志を見た。
目に映る敦志は、普段と同じ、丁寧な言葉遣いに紳士的な立ち居振る舞いだ。
しかし、重い頭の優子には、敦志の態度がやけに義務的に感じてしまって悲しくなる。
わかってはいるはずだ。敦志に想いを寄せても、叶わぬ恋だろうということは。
それでも、密かに慕うくらいは……と過ごしてきた優子が、思わぬ出来事が続き、敦志とこうして言葉を交わすまでになった。
すると、人間欲深くなるもので……。