ナイショの恋人は副社長!?

 
医務室にいた敦志は、腕時計を確認した。

(今はちょうど昼。打ち合わせや外出は入っていない)
 
一日のスケジュールを頭の中で思い出し、敦志はキャスター付きの椅子を引いて腰を下ろす。

しなければならない仕事はもちろんある。
他の社員に優子を委ね、戻ってもよかったのだが、どうしても放っておけなかった。
 
ベッドに横たわる優子を見下ろし、敦志は自分の手のひらを見つめた。

(服の上からも熱いのがわかるなんて、相当だ)
 
ギュッと広げていた手を握り、奥歯を噛みしめる。

(全く気が付かなかった。もしかして、朝から? もうひとりの受付の子も気づいてなかった様子だったな)
 
医務室について、まず先に受付へと連絡を入れた時の今本の電話口で驚いていた反応を思い返す。
ずっと隣にいたはずの今本にも気づかれない程、普通にしていただなんて、どんな精神力なのだろうかと、敦志は一驚を喫していた。
 
一方、優子は熱に浮かされ、苦し気に眉を寄せていた。
時折唸るような声を漏らす優子を見つめ、敦志は昨夜のことが再び脳裏に浮かんだ。
 
そっと額に手をあてると、敦志の手のひらに優子の熱が直に伝わる。
反対に、優子は少し冷やりとした感覚が気持ちよく、顰めていた顔が和らいだ。
 
優しい手つきで生え際へと撫でられるのが、心地いい。
 
あまりに優しく触れられるから、そのまま深い眠りに誘われそうになった程だ。
しかし、快楽の片隅で、現実の記憶を辿り、今自分が置かれている状況はどうなっているのかと考えていた。

そして、数十秒後。

「……え。ふっ、副社長……!?」
 
ぼやけた視界が明瞭になると共に、その目に映し出されたのは敦志の姿。
当然、一気に現実に引き戻された優子は、掛け布団を跳ね退ける勢いで飛び起きる。

「急に起き上がると、また目眩を起こします」
 
慌てる優子とは対照的に、落ち着いた反応を見せる敦志は微かに笑って言った。
硬直する優子は、言葉が咄嗟に出て来ず、忙しなく瞬きを繰り返す。

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