ナイショの恋人は副社長!?
「インフォには早急にヘルプを回しましたから、大丈夫ですよ」
 
今度は、ニッコリとわかりやすい笑顔を浮かべた敦志に、優子は肩を竦めて謝った。

「副社長は、お忙しいのに……お時間を取らせてしまって申し訳ありません」
 
熱はまだあるものの、一度倒れて目覚めたため、先程のような感情の暴走はない。
いつもの優子に戻り、心から頭を下げる。

「いえ。やはり昨日、私が無理をさせてしまったせいでしょうから」
 
本心で口にしたことだが、優子にとってはそれすらも気を遣わせていると受け取ってしまう。

(きっと、自己管理が出来てないって思われた)
 
大きく肩を落とす優子は、顔も上げられなくなる。
特別な感情を抱いてもらうことはなくても、せめて、仕事の面では評価してもらえるような存在でいたかった。

(よく考えたら、昨日の接待の場でも、ヴォルフさんに偉そうな口きいちゃって。帰り道から記憶も飛んでるし、副社長の中で、私って悪印象しかないかも)
 
優子が覚えているのは、敦志と並んでタクシーに乗り込んだ気がするというところまで。
それ以降はどう頑張っても思い出すことが出来ず、きっとふらつきながら自宅に戻ったのだろうと勝手に思い込んでいた。

それが、もしかしたら、他にもなにか迷惑を掛けたり、失態を見せていたかもしれないと不意に思う。

「いいえ! そんなことはありません。副社長はなにも……」
 
優子はそう思うと、必死に首を横に振っていた。
ただ、これ以上は迷惑を掛けたくない一心で、忙しなく言葉を繋げる。

「ありがとうございました。もう大丈夫ですから、どうぞお戻りになって」
「どうして無理をするんですか」
 
頭を下げていたところに、やや強めの語尾で敦志が言った。
吃驚した優子は、思わず顔を上げ、敦志を見る。
 
敦志は、眉根を寄せ、握っていた手に力を込めていた。
そのもどかしい気持ちが、優子には正確には伝わっていない。

困惑したように目を瞬かせて見上げる優子を見て、敦志は我に返る。

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