ナイショの恋人は副社長!?
拒絶


「早乙女さん。どちらに行かれてたんですか? 社長がお探しでしたけど」
 
十五階に戻るや否や、廊下で出くわした芹沢に聞かれた敦志は、微かに口角を上げて答えた。

「すみません。少々事情がありまして。携帯も部屋に置きっぱなしでした」
「珍しいですね。早乙女さんが、予定外の行動をされるなんて」
「ご迷惑をお掛けしました。このまま社長室へ参ります」
 
芹沢を横切って、純一が待つ社長室へと直行する。敦志の後を芹沢はついて行った。

「遅い」
 
社長室に入ると、開口一番に純一の不機嫌そうな声が飛んでくる。

「申し訳ありません。お急ぎの用件でしたか?」
「……まぁ、そこそこな」
 
敦志が頭を下げると、純一は頬杖をついた手で口元を隠して顔を逸らした。
その後、少し間を置いて、純一が再び口を開く。

「先程、シュナイダー氏から連絡が入った」
「えっ?」
 
純一の口から聞こえた『シュナイダー』という名に、敦志は目を見開いた。
その動揺は些細なものではあるが、長年共に過ごしてきた純一には気づかれるものだ。
 
視線を斜め下に落とし、厳しい目つきをする敦志に、純一は不思議そうに尋ねる。

「なにか気になることでも?」
「はっ……いえ。そういうことは特に……。あの、彼は何と?」


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