ナイショの恋人は副社長!?
「彼? ああ、違う。ドリス・シュナイダー。妹の方だ」
「妹!?」
敦志は、思い込みでヴォルフだと断定して聞いていたことに、内心慌てる。
自分でも気づかぬうちに、相当ヴォルフを意識しているのだと思い知らされた。
この場を取り繕うように小さく咳払いをし、メガネを指で押し上げた敦志は、改めて純一に聞いた。
「ドリス様が、いかがされたのですか?」
「……敦志のプライベートナンバーを教えて欲しい、と」
純一の言葉に、敦志だけではなく、後方に待機していた芹沢も目を剥いた。
固まったままの敦志に、チラリと目を向けた純一が続ける。
「あと数日、日本にいるらしい。その間、ぜひまた一緒に食事でも、と。一応、建前では、社長(オレ)は忙しいだろうし、副社長(敦志)は言葉もわかるようだからって言っていたけどな」
純一は、組んでいた長い足を下ろし、椅子をクルッを回して立ち上がる。
呆気に取られた状態の敦志は、ただ茫然と純一の横顔を見た。
逆光を浴びながら、ゆっくりと左手を大きなデスクの端に置いた純一は、再び敦志を真っ直ぐと見つめる。
「どうする?」
その言い方は、決して敦志を試すような言い方ではない。
どちらかと言えば、心配しながらも敦志に委ねる、というような面持ちだ。
純一の問いに、敦志は何度か目を瞬かせ、ひとつ息を吐いてから答えた。
「どうすると言われても……下手な返事は出来ないでしょう」
「俺は敦志に嫌な思いをさせてまで、契約を取ろうとは思わない」
「私は、あなたの足を引っ張るために側にいるわけではないんですよ。それに、この件を単に深読みしすぎているだけかもしれませんよ」