ナイショの恋人は副社長!?
 
敦志の純一への忠誠心は大きなものだった。
 それは、少し前に、社長と秘書という間柄だったためということだけではなかった。

彼らには、社内では公にしていない秘密がある。

それを共有していることと、その内容……過去からの繋がりがそうさせていた。
 
純一は敦志を心から信頼し、慕っている。
だからこそ、仕事のために敦志を犠牲にするようなことは絶対にしない。

そして、敦志もまた、恩恵のある純一の支えになり、守ることが当たり前だった。

「ここで良好な関係を築いておけば、社にとってもいい結果に繋がるでしょう。縁談話というわけではないですし、交友関係として親しくなるには問題ありませんよ」
 
フッと息を零して笑いながら言う敦志に対し、重い溜め息を吐くのは純一だ。

「……縁談話までになったらどうする? 自分のこととなると慎重さに欠けるな、お前は」
「純一くんこそ。人のことになると、心配性になるんだね」
 
秘書である芹沢以外の社員は知らない、ふたりの空気は、まるで兄弟のようなもの。
目を細めて笑う敦志は、ふたつ年下の純一のことを、本当の弟のようにも思っている。

和やかな雰囲気の中、表情を引き締め直す純一が敦志に一枚のメモを差し出した。

「うるさい。じゃあ、敦志に任せる。でも、くれぐれも勝手な判断で動かないように」
「――承知致しました」
 
敦志はメモを受け取り、敬礼をすると、そのメモに視線を落とす。
そこには宿泊しているホテル名と、その電話番号が記されていた。

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