ナイショの恋人は副社長!?
 
営業時間を迎えると、私語を慎み静かに待機する。
受付に来客がいなくとも、出入りの多い場所のため、常に気を引き締めなければならなかった。
 
優子はいつも、フロア全体を意識しながら、玄関付近を特に気を掛ける。
そこに、小声で今本が話しかけた。

「あ、社長だ。珍しい」
 
その言葉に、ぴくっと耳を動かし、フロアにチラリと目を向けた。

今本の言う通り、若き社長の藤堂純一が、男性と談笑しながら歩いている。
そして、その一歩後ろには、敦志の姿が確かにあった。

(副社長……!)
 
約五十メートル程離れたところに見える敦志は、優子からは横顔しか見えない。
しかし、優子は横から彼を眺めることもまた、好きだった。
 
ピンと張った背筋に、スラリと伸びる手足。メガネを掛けた横顔が、また凛々しく見える。
もっと細かく言ってしまうと、敦志の所作諸々が、優子の目には魅力的に映ってしまう。

「ウチの社長って本当にカッコいい! いいなぁ。あんな人が彼氏だったら!」
 
左隣に座る今本が、悩ましい溜め息と共に小声で言う。
彼女がそう零すのも無理はない。

社長である藤堂純一とは、眉目秀麗で仕事も出来、歳も社長にしては若く、今年三十一。
憧れの的になるには十分すぎるスペックの持ち主だ。

(確かにカッコイイんだろうけど……)
 
心の中で異論を唱える優子は、純一と敦志を見比べる。

純一に僅かに及ばないが、背丈もある。優子の今朝の記憶から、敦志は180センチはありそうだ。
顔立ちも、目立つタイプではないが、鼻筋も通って整ったもの。
メガネというアイテムもあるせいか、知的な印象を受ける。

さらには、副社長という肩書にもかかわらず、あの物腰の柔らかさ。

(私は、迷わず副社長だな)
 
気づけば、勤務中ということも忘れ、敦志に魅入ってしまう優子。
ジッと彼だけに視線を送り続けていると、敦志がふと、受付へと顔を向ける。

遠い距離ながらに、目が合った気がする優子は、ドキリとして固まった。
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