ナイショの恋人は副社長!?


築数十年は過ぎてるアパートの一室。
決してオシャレとは言えない外観の建物だが、その部屋は綺麗に整頓されていた。
 
定時で上がった優子は、下は制服のまま真っ直ぐに帰宅した。
壊れたファスナーのスカートはそのままにして、夕食の支度をし終えたところ。

小さなテーブルにひとり分の食事を並べ、正座する。
「ふー」とようやくひと息吐くと、箸を手にして一度止まった。徐に顔を上げ、壁際に掛けた敦志の上着を見る。
 
本当は、帰宅途中にクリーニングに預けようかと考えた。
しかし、気づけばなぜか、そのまま持って帰ってきてしまった。

(これじゃ、ストーカーみたいだ)
 
見上げたスーツに罪悪感を覚え、フッと目を逸らすように食事に手を付ける。

(だけど……こんなこと、もう二度とないと思ったら、つい)
 
なにか悪用しようだなんて考えは毛頭ない。
ただ、もう少しだけ、彼の存在を身近に感じていたかった。
 
チラリと視線をスーツに戻し、至近距離で笑い掛けてきた敦志を思い出す。

(明日、出社前にクリーニングに出して行こう)

明日の予定を頭の中で立てながら、優子はひじき煮を頬張った。


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