ナイショの恋人は副社長!?
それから数日。
気にしてはいるものの、出社途中で敦志を見掛けることはなかった。
それどころか、社内でも姿を見ることがない。
優子は、まるであの日のことが、夢だったのではないかと思ってしまう。
その度に、クリーニング屋の控えを眺め、現実のことだったはず、と確認をしていたものだった。
スーツの上着をクリーニング屋から受け取ったあとも、敦志に返すことが出来ずに三日経つ。
そもそも、就業時間中に姿を見ないのだからどうしようもないのだが、仮に敦志を見つけたとして、勤務中に話しかけることなど出来やしない。
そうかといって、休憩時間中に副社長室へ訪れるなど、さらに勇気がいる。
大体、敦志は自分のことなど知るはずがないため、突然出向いたなら驚かれるに決まっている。
(それに、仕事の邪魔になっちゃうかもしれない。副社長が休憩する時間なんて、わからないし)
結局、優子の出来ることと言えば、偶然をひたすら待つか、もしくは――。
そうして、その日の勤務後に起こした行動は、いわゆる出待ち。
重役しか出入りに使用しないと聞く裏口が見える場所で、紙袋を抱えて静かに目を光らせる。
落ち着いて考えれば、今の行動の方がよっぽど驚かれるだろうし、非常識。
けれども、優子はこの三日間、考えすぎたあまり、冷静な判断を欠いていたとしか言えなかった。
ふと、そのことに気づき始めたのは、出待ちをして一時間程経った頃。
(待って。これって、それこそストーカーだと思われる行為じゃ……)
自分の浅はかな考えと行動に、サーッと青褪める。
誰かに見られる前に立ち去ろうとした時に、裏口に人影が見えた。思わず息を顰め、目を凝らして出口を見つめた。
薄暗くなってきた空の下、現れたのは、優子が待ち望んでいた人物――敦志だ。
仕事後のはずだが、疲れなど微塵も感じさせず、凛々しい顔で歩いていく。
優子は、やはりその姿に見惚れながら、数秒経って我に返る。
急がなければ、車にでも乗りこんで、あっという間に目の前からいなくなってしまうかもしれない。
その焦燥感だけが背中を押し、勢い任せに物陰から走り出した優子は声を上げた。