複数人(ヤンデレ)に求愛されています
一章
(1)
「昨晩、100人のフィーナにもみくちゃにされる夢を見たんだ」
おやつの時間に、青空の下でいうべき事ではないことを平然と口にされてしまった。
村の野外集会所にある共有の巨大薪オーブンの燃料を調達してほしいと頼めば、杖一振りで薪一年分を用意する彼は暇そうにベンチに座り、こちらを眺めていたと思えばまさかの発言。
思わず、煙を吸い咳き込んでしまった。
「100人の私ですか……」
息を整えつつ、火力調整のため薪を投入。
アップルパイが食べたくなったため、どうせならと大量生産している現在。いつでもどこでも、必ず私のそばにいる彼は笑顔で返してきた。
「そう、100人。とても刺激的な夢だった。100人それぞれ、煌びやかなウェディングドレスを着て、俺に求婚をしてくれた。しまいには、自らそのドレスを脱ぎーー」
「フォークとナイフの準備を」
「一人一人と生涯の愛を誓い合った涙なしでは語れないストーリーとなり、何よりもみだらな」
「話を続けますか……」
話をそらそうと、ナイフとフォークを準備してもらおうと思えば、また杖一振りで準備されてしまった。
最強魔法使い(チート)たる彼。私なんかお玉から炎を出せるだけだというのに。
因みに言えば、アップルパイの材料も彼が全て用意してくれた。こちらは危険なモンスターが潜む森にしかならないという伝説のリンゴを求めて旅立とうとしていたのだが、テーブルの上には既に準備されていたので私がやることと言えば作るのみ。
「夜にして下さいよ、そんな話は。村の子たちが聞いたら大変です」
「分かった。夜に実演つきで、教えよう」
「今でお願いします」
さすがに身が持たない夜になりそうなので、今にしてもらう。周りに配慮してくれたのか、私との距離を詰める彼は声量を抑えて語ってくれる。
耳まで赤くなるような内容だった。
現実の私では有り得ないようなことだけど、夢だから積極的になってしまうのか。
「実演、したくない?」
「ふ、普通のがいいです」
そっかと笑う彼は、果たしてどんな思いを持ってそう言ったのか。
「ところでさ、フィーナは100人の俺がいるような夢、見たくない?」
「100人の、クラビスさんですか……」
「そう破顔しないでよ。たった一人の俺でさえも、こんなに君を愛しているんだ。きっと、忘れられない夢になると思うんだけど」
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