複数人(ヤンデレ)に求愛されています
「さて、そろそろ片付けに行くか」
「んー?」
「うん、片付けてくる」
とか言いながら、門番さんは剣を抜く。
「下っ端の門番だからさ、部屋は相部屋なんだ。今の部屋にはもう一人いるんだけど。君を招くのにそいつは邪魔だから、片付けてくる」
一番やってはいけないお掃除!?
ダメダメと訴えてみるも、門番さんはやる気満々だった。
「そっか。フィーナもそこまで喜んでくれるなら、早く綺麗に片付けて来なきゃ」
今までの解読スキルは何処へ!?
訴え虚しく、門番さんは足取り軽く行ってしまった。
ああぁ。世にも残酷なお掃除が……
それに荷担してしまったようで、私にまで罪悪感がある。
止めたいけど、この状態じゃーー。
「むーっ」
芋虫歩行で動いてみる。あ、案外いける。
人間、地道な努力が大切なんだとせっせと這いずる。ーー過程。
「えっと、小麦粉小麦粉はーーと」
コック姿の彼が入ってきた。
「フィーナ!?」
「むゆーむん」
「いやいや、どう見てもフィーナでしょう」
解読スキルを持つ彼もまた、クラビスさんの偽物。大丈夫?と縄を外してくれた。
「ぷはっ。は、早く行かなければ。門番さんが門番さんを」
「あー、また殺し合いしているのか。気にしなくていいよ、いつものことだから。毎回、喧嘩内容はどちらがフィーナに相応しいかだし。あ、今晩の夕食は一人分減るかな。フィーナ、二人前いける?君の好きな、マッハドードーのソテーだけど」
「むしろ、三人前はいけます!」
宣言しながら、そうじゃないと一人ツッコミ。マッハドードーという、飛べない鳥の肉はご馳走。危うく釣られるところだった。
「と、止めなきゃ」
「気にしなくていいよ。同じ顔の奴が一人いなくなるだけだから」
「この世界の生死観はその程度でいいのですか……」
「フィーナさえ無事なら何も問題ないよ」
手足の縄も外される。痛くない?と手首をさすられた。
「えっと、あなたも偽物ですよね?」
「まあね。コック長をしている。まあ、料理作るのは俺ぐらいだけど」
手を差し出されたので、立ち上がる。
離そうとしたけど、手は握られたままだった。
「あの、コックラビスさん」
「素敵なあだ名をありがとう。君に貰った名なら、俺は一生そう名乗るよ」
「ふざけてごめんなさいごめんなさい。私はこれから、王様に会いに行かなければなので」
門番さんを止めるよりは、早くこの世界から抜け出した方がいいだろう。終わらない争いの止め方だ。
けれどコックラビスさんーーもとい、コックさんは、もうちょっとここにいなよと言ってくる。
「王様に会いに行けば、また幽閉されちゃうよ?そうなる前にさ、美味しいデザートはどう?君が好きな生クリームたっぷりのケーキを作っているんだけど。このまま君が食べてくれないなら、城の窓から投げ出す結果になるから」
「食べます」
罪なきケーキのため、もう少しここにいよう。
導かれるままに、連れて行かれる。
「今日は食べてもらえそうで嬉しいよ。いつもついつい、君の姿を思い出してはケーキを作ってばかりで。食べてはくれないと分かっていても、やっぱり毎日、気付けば廃棄するためのケーキを作って」
「みんなで仲良く食べるの選択肢はないのですか……」
本物の彼は最初、料理が出来ない人だった。しかして、私と一緒になってからこちらの健康に気を使い始め、三食バランス良い食事を提供するためにも料理をマスターしていた。
甘いもの系は、おおよそ私の分野だけど、このコックさんは何でも作れるのだろう。
料理上手な彼が作るケーキ。とてつもなく美味しいのだろうなぁと、よだれ生成中。