複数人(ヤンデレ)に求愛されています

「フィーナが、また脱走した」

黒さにどす黒さを重ねた彼の声がした。

かなり怒っている彼の声はーー以前、村長の話が聞きたいとやってきた冒険者が酒に酔い、私に絡んだのを見た時の声にそっくりだ。あの時は、空に暗雲立ち込め、大地が割れ、村長の家が爆発したとんでもない事態になったけど。

「だからまた、門番の一人を虐殺?俺(クラビス)が悲鳴あげるなんて、よっぽど酷いやり方をしたんだな」

「ハッ、本物(王)があの程度で声を上げるものか。俺たちは同じであっても違う。そうだ、違う。あんな王よりも、俺の方がフィーナを愛しているのに。たかが知れた愛情だからこそ、みすみす彼女を逃がすんだ。どうするというんだ、こうしている間にも彼女が襲われてでもしたら……!

村に行けば確実に追い回され、城に来たところで門番に拉致され、貴様とて、フィーナを襲いたくてたまらないはずだ!ここは、彼女を害するものばかりだというのに、なぜ、あの部屋に閉じ込めておかないんだ!」

当たってるー!
幽閉されたままの方が、安全だったじゃないか、されたことないですが!

「そう、青筋立てるなよ。何のよう?俺、忙しいんだけど」

「空腹だ。一週間、彼女のことを考えていたら寝食を忘れていた。軽いものでいい、用意してくれ」

「餓死すればいいだろう?」

「ここで俺がいなくなったら、誰が彼女を守る?俺が死ぬときは、彼女を抱く時だ」

「それは、王以外のクラビスの願望でもあるけど。ああ、分かった。材料持ってくるから、食堂にいればいい。料理しか出来ない身には、お前の暴力は受けきれない」

ここに来たときからーー村のクラビスさんたちが私を捕まえられないあたりで疑問にあったけど、今の言葉で確信した。

姿形は同じでも、彼の最強魔法使い(チート)属性までは反映されていないらしい。

もしもあちらこちらに、そんな力を持った人がいたら恐怖でしかないけど、先ほどの悲鳴といい、コックさんの口振りといい、今ここにいるクラビスさんは王(彼寄り)の力を持っているということなのか。なんだか、邪神のような雰囲気を身にまとっているし。存在も近しいけど。

本物ではないのは確か。
私のそばにいてくれるクラビスさんはいつも笑顔でいてくれるから。


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