複数人(ヤンデレ)に求愛されています
「すぐに戻ってきて、すぐに終わらせるから、そこで動かずじっとしているんだよー」
「俺を子供扱いとは、いつからそんなご身分になったんだ」
「これぐらいの嫌みは言わせろよ、宰相閣下。倉庫から材料を持ってくる。料理が出来たら、すぐに食堂にでも行け。ウェディングケーキを食べ尽くさなきゃいけないのだから」
恐らくは私に向けた言葉だったのだろう。
鼻歌混じりに出て行くコックさんは、宰相閣下の用件を済ませるなり、先の“続き”を想像しているようだ。
ーーさて。
「ちっ」
舌打ちをするほど機嫌が悪い、暗黒界より召喚されたようなクラビスさんーーもとい、宰相さんが椅子を引く。
机と椅子の用途はこれでしかない。座る宰相さんの足にぶつからないよう、少し身を引く。
長いテーブルクロスのおかげで、宰相さんが私を視界に入れることはないけど、村人が発揮した私サーチ能力がある以上、吐息一つでもバレてしまうかもしれない。
口に手を当て、ぐっと堪える。
「くそ、くそっ!どうして、フィーナを逃がす。あの無能の王者が……!フィーナの水晶がなければ、誰があんなのに仕えるものか……!」
むしろそれだけで、宰相というとてつもなく大変な役職に就いているので!?と心でツッコミ。
フィーナの水晶とは、門番さんが言っていた私の姿が映っているものだろう。
そういえば、巷では写真が流行っているのに何故水晶?と聞いてみたところ、『その場にいなくても見られて保存出来るから』とチートクラビスさんは言っていた。
どんな物をコレクションしているのかは、知らない方が賢明かもしれない……
早く行かないかなぁと待っていれば、突然、頭上から大きな音がした。机を叩いたらしい。
「どうしてっ、どうしてあんなのが!俺こそが、偽物じゃない、本物のーー本物以上に彼女を求め愛しているのに!どうしてアレが、あの程度の奴がフィーナを独占出来るというんだ!彼女を一番に考えているのは俺!むざむざ逃がしたりなどせず、幽閉して、外界から完全に遮断し、誰にも触れられないよう見られないよう汚されないよう……っ、俺が、俺だけが触れて見て、綺麗なまま愛するのにっ、フィーナ!フィーナ!フィーナ!俺が一番だ唯一だ、俺だけ俺だけのモノになればいいのに、どうしてっ!次こそは逃がさない。王が脱走を許そうとも、そんな愚かな奴の命令ごと排除して、生涯をかけて、幽閉(守って)あげなければ!
鎖でも、薬でも、何なら俺自身が彼女と共に牢獄の中にいてもいい!ああ、それだ。それがいい。俺自身が彼女のそばから離れずに、同じ場所で近い距離で、抱き合い続ければいいんだ。鎖がなくともこの腕が、薬がなくともこの体で、彼女から逃げる意思を奪えばいい。あーっ、ゾクゾクしてきた。想像するだけでも、楽しみでーー早く早くフィーナを見つけて……クッ、フィーナと、フィーナフィーナフィーナフィーナと、早くっ!」