複数人(ヤンデレ)に求愛されています
その伝説、すっごく見たいのですがっ!
ガタッと、声には出なかったのに、体が反応してしまった。
「誰だっ!」
机がひっくり返される。侵入者と思ったのか、鋭い眼光の宰相さんと目が合ったが。
「ーー、ふぃっ」
引きつったような名前呼びと共に呆然としていたので、イマダッ!的な感じで逃げようとしたが、あえなく捕まってしまった。どうやら、私のイマダッ!は世間的には通用しないらしい。
「そんなっ、フィーナ!本当、に」
「ちがいますちがいますっ」
「俺はまた幻覚を見ているのか」
「幻覚です幻覚ーーって、『また』!?」
いつの間にやら私は幻覚にもなることが出来たらしい。残念なことに今は本物なので、宰相さんに体の隅々を触られても消えることはない。
「温かい。それに匂いも、感触も……っ、フィーナ!会いたかった!ずっとずっと待ちこがれていた!」
「ご、ごめんなさい。十年越しの再会のような感動に水を差して申し訳ないのですが、私にはクラビスさんがいるので、あまり体を……」
「やっとだ。やっと、フィーナが俺を選んでくれた……!」
「あ、いえ、クラビスさんと言っても宰相さんではーーひゃあ!」
恒例のお姫様抱っこ。
目をランランとさせながらも、焦点は私にしか合ってないような瞳で見つめられる。
「危険な外に出た罰(お仕置き)をしなければと思ってもいたけど、君が無事に帰ってきてくれただけで嬉しいよ。俺もほとほと君に甘い。もう、心配かけさせないでね」
頬ずりをされた。先ほどまで、世界を滅亡させるほどの機嫌の悪さが嘘のよう。ニコニコと朗らかな笑顔なのに、私を掴まえる腕は力強い。
「そうだ、フィーナ。もう君が二度と危険な目に合わないよう、色々考えたんだ」
「あ、机の下で聞いてました」
「なら、話は早いね。今度から俺が君を幽閉しよう。どこにも行けないよう閉じ込めて、寂しくないよう一緒にいるから。俺と生涯を共にしようね」
「その件なのですが、伝説のゲノゲさんを見たいのでーー」
「楽しみだなぁ。君と死ぬまで、文字通り一緒にいられるなんて。片時も離れるつもりはないから。それでも逃げようとするなら、ーーどんな手を使ってでも、君を繋いでおこう」
「……、クラビスさーん」
助けを呼んでみても、返事をしたのは私をどこかに連れて行こうとする宰相さん。
私に名前を呼ばれただけで、彼と同じ顔をして、満面の笑みを浮かべていた。