複数人(ヤンデレ)に求愛されています
「瞼、閉じた方がいいよ。舐めるから」
「っっ!」
僅差で、宰相さんの舌が這う。
瞼だけでなく顔全体。熱い吐息と共に、粘り着き、ざらつく物が顔を汚していく。
「開けて」
目を開ける。
「俺しか見えてないよね。君の眼球には、俺しかいない」
吐息がかかる距離どころか、宰相さんと私のあいだには“距離”すら存在しない。密着だ。
やけに楽しそうに。それでいて、切羽詰まったかのように彼は私の顔を舐め続ける。また瞼を閉じた。互いの息づかいと心音がやけに大きい。
酸欠気味になり、やっと離れたざらつきのあと、残ったのはベタベタとまとわり付く唾液だけ。
空気に触れればすぐに渇いた。あれほど熱かったのに、途端に身震いするほど寒くなる。
「苦しかったんだ。気が遠くなるほど、死にたくなるほど苦しくても。君への愛情は消え失せない」
むしろ、日に日に大きくなるばかりだったと、私の眼球を占領する宰相さんは泣きそうになっていた。
「俺の全てを占領して、独占していながら、君の心は余所にある。しかもかそれが、俺と同じ姿のやつのもとにだ。俺が王の偽物であるのは分かっている。これはきっと、王が持つ思いであることも。ーーけど、だからといって、どうして受け入れられる?
この苦しさは他人のものだと我慢できる訳がない。苦しい、苦しいんだ……!他の誰でもない、俺が、俺の思い(苦しさ)なんだ!
王の思いが反映されて、フィーナへの思いが形成されているとしてもーー例えどんなに苦しさがあっても、俺は一度たりとも君を憎んだことはない!」
抱き締められる。
「報われなくても、愛したことを後悔したことはないんだ……」
強く、抱き締められる。
「君を愛せて幸せだと、ずっと思っていた」
どんなに苦しくても。
そう宰相さんは言った。