複数人(ヤンデレ)に求愛されています
「フィーナが終わりを望むのなら、そうしよう。後は現実で、俺たちだけの続きをしようか」
「クラビスさん……」
村人でも、門番でも、コックでも、宰相でもない。ましてや、他の誰でもないクラビスさん自身がそこにいた。
「やっぱり凄いね。俺(本物)をすぐに見極めるなんて」
「あなたが一番、綺麗に笑うから」
満たされた顔で幸せそうに笑うから。
私の愛情を唯一感じられる彼は、こんな場面でもその顔を崩すことはない。
「単純な話、俺に愛されて喜ぶ君が、複数人の俺に愛されたならば喜びも倍になる。そんな結末に持って行きたかったのだけど」
「100人の私に愛されて、あなたの喜びは倍になりましたか?」
「なったよ。至福だった」
「そうして、夢の結末は?」
「全ては偽物(夢)だったと、消し去り、現実の君を抱き寄せた」
愛する人はたった一人でいい。徹頭徹尾、そこに通ずる。彼は過程を楽しめたようだけど、私は違う。
「泣かせてごめんね。君を泣かせた罰として、好きな場所をナイフで刺してもいいよ。オススメは目玉かな」
「しばらく、キス禁止です」
「死刑宣告されるほど、怒らせたか」
それが嫌だったからこそ、より苦痛を与えられるやり方を提示されたけど出来るわけがない。
さあ帰ろうかと、彼は歩み寄るが、宰相さんはそれを良しとしない。
「貴様に、渡すぐらいなら!」
「お前がフィーナを殺せるわけがない。俺がフィーナのために死ぬことはあっても、その逆はない。許されない」
それもまた許されないことなのだけど。
自由になった手で宰相さんの頬に触れる。涙で濡れた頬を拭いた。
「フィーナ……」
「愛してくれてありがとうございます。でも、ごめんなさい」
宰相さんの腕の拘束は、言葉一つですんなりとほどけた。
彼のもとへ行き、その手を取る。
「君を愛せて、幸せだった」
最後まで感じたものは、心の奥底に深く根付く。これから先、何度となく思い出す。宰相さんの願いと少し違った形として、私は彼ーー彼らのことを思い出すのだろう。