複数人(ヤンデレ)に求愛されています

(5)

目が覚めると、空を飛んでいた。

「きゃー」

「凄く気の抜けた悲鳴をありがとう」

驚いたふりはすぐにバレる。ここ最近は、チートさんな彼のおかげでどんなことにも動じない鉄壁の肝を持った。

空を飛んでいる。空が近い。
羽がなくとも飛べる理由を探れば、やけにふわふわしたものに私と彼は乗っていた。

「コンニチハー」

「きゃー、きゃー」

「さっきよりは驚いたんだね」

ゲノゲさんが寄せ集まった塊に乗り、風と共に浮遊中。

潰してしまわないかと心配だったが、ゲノゲさんは眠たそうな目のまま、私たちをどこかに運ぶ。

「100匹のゲノゲさんですか」

「お詫びのつもりで、1000匹用意した」

悪いことをした自覚はあったらしい。
彼の膝上に乗せられ、許してくれる?と聞かれた。

「キスはしませんよ」

「しばらくは怒ったままなんだね」

恋人に喧嘩はつきものだ。それでもこうして、そばにいるのは好きだからこそに変わりない。

「これも、夢ですか?」

「いや、現実」

「現実にいながら、夢心地なのですが」

「フィーナと両思いな段階で、俺はいつも夢心地だよ。ーー改めて、選ばれた嬉しさを今、噛みしめている」

「そのために、選ばれなかった方々は、いったいどうなるのですか」

「君の中に残り続ける。それら含めて、俺が君を幸せにして、君のために消えていくんだ」

「そうやって、命で愛を語らないで下さいよ。夢の彼らも、あなたも」

心音を聞くように、彼に抱き付く。

「悲しくなります」

「……」

何も言わない彼は、私に嘘をつかない人。

優しい嘘すらもつけない人は、黙ったまま。しかして静かにーーはっきりと、「愛しているから」と口にした。

このままだと、いつか取り返しのつかないことになるかもしれない。そうなってほしくないから、同じ言葉をくり返す。

愛しているから。
だからこそ、私は彼を選ぶんだ。

百の愛情よりも、一つの愛情が愛おしい。

もし、それがなくなりでもしたら?

考えたくもない。
そうして、今はただ、彼の心音を聞き続けていくんだーー








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