複数人(ヤンデレ)に求愛されています
「100人の、クラビスさん、だ……」
もう、紛れもなく。花束を持ったタキシード姿の彼。中には既に私の用のウェディングドレスまで持参している人もいた。
彼が調合した薬、恐るべし。
ピンポイントで望む夢を見させて、しかもか現実そのものの感覚を与えたまま、私自身の意思で動けるとは。
これはいったいどうするべきか。彼の場合は100人の私に求婚されて嬉しかったらしいけど。
「フィーナどうして出てきてくれないんだっ」
「ずっとずっと、君を愛しているのに!」
「俺には君しかいない、俺が誰よりも君を愛しているんだ!」
「いいやっ、俺の方が」「いや、俺が!」「何を言っている、俺が!」
瞬時に修羅場!?
こ、ここは、『私のために争わないでっ!』という端から見れば白けるような台詞を言って止めなければならないので!?
でも、女性ならば一度は言ってみたい気もしなくは……ないと思っていれば、一人がいきなりフィーナを愛していいのは俺だけだ!と、ナイフ片手に暴れ出したので、「待った待ったああぁ!」と色気ゼロの声が出てしまった。
あ、と思う。恐らくは、私が家の中にいると思っていた100人のクラビスさんたちも。
制止し、持っていた花束をぼとぼと落としていき。
「「「フィーナっ!」」」
「きゃああああっ!」
追われた。
全力疾走で逃げる私がいるからの行為なのだけど、逃げずにいられるか。
名前を呼ばれたり、愛していると言われたり、どこにも行かせないと鎖を持っていたり、時折邪魔な奴らを排除しながら追ったりと。
「もっと普通の恋人関係ではダメなのですかあああぁ!」
いくら好きな人でも、こんな血眼になって私を追ってくる彼らはノーサンキュー。
逃げるに逃げて森の中。
小さい頃から森を駆けずり回った私に地の利はあったか、何人かはまけたけど。
「こっちから、フィーナの匂いが」
「こっちで、フィーナの足音が」
「フィーナの息づかいが」
「フィーナの気配がっ」
「私にだけに特化した能力を出さないでもらえます!?」
第六感まで覚醒しつつある彼らから逃げること、30分以上。さすがに体力の限界を感じたので、巨木のウロで腰を落ち着かせる。
「ぜえぜえ。珍味たるモンスターを追った以来ですよ、こんなに走ったのは」
あの時、炎が出るお玉片手に追い続けたモンスターもこんな気持ちだったのかと少し反省。美味しく頂きましたけど。
でも、ここであのクラビスさんたちに捕まったら美味しく頂きました程度の話じゃなくなってしまうんだろうなぁ。
はあ、とため息をついていれば、ふわふわと綿毛が飛んできた。