複数人(ヤンデレ)に求愛されています
「みんな仲良くは無理かなぁ。100人の村の住人は今まで、一日ごと順番に君をお嫁さんにして、何とか村の平穏を守ってきたけど、王が帰ってきてから、君はお城に幽閉されてしまった。村の奴らのフラストレーションは溜まりに溜まって、そんな時に君の姿を見ようもの、な、らーー餓死寸前のハイエナに追われてしまったんだね」
「とんでもない設定をつけないでもらえますか……」
同じ人でも、毎日違う人物のお嫁さんとされていたとは。たまにお休みとかなきゃ、やっていけない夫婦生活だ。
「幽閉の身らしいですが、出ていますよ」
「また王にワガママ言って、出してもらったんじゃないの?今度はなに?この前は伝説のリンゴだったけど、今日は伝説の桃とか?」
「物凄く単純な理由で私のワガママを叶えてくれるあたり、彼らしいですね」
お願いすれば脱走させてくれる彼に幽閉の何たるかを説かなければいけないのか。村人たちがお城ではなく、私の家の周りにいたのを考えれば、かなりの頻度で脱走(帰って)いたのかもしれない。
「はっ、もしやあなたに見つかれば、また幽閉されてしまうので?」
「いや、俺は門番だし、君が嫌なら見なかったことにするよ」
「そうですか、助かります」
ありがたやー、と拝み、門番さんの横を通り過ぎようとした矢先。
「でも、フィーナのことが大好きなのは変わりない。幽閉してしまう王と同じように」
がっしりと掴まれた腕。あれよあれよと、薔薇の生垣に引き連れられてしまった。
「え、えぇ」
「本当に可愛いなぁ。この薔薇以上に綺麗でもあるし、いい匂い」
「取って食べないのでは!?」
「愛でてるだけ」
押し倒されて、額にキスのちの、くんくん。額だったり、首筋だったり、耳の裏だったり。30分以上走ってきた身としては、あまりくんくんしないでほしい。
「や、やめてくださ、いー」
待って待ってと手のひらで、彼の顔を押しのけてみるも、指先をパクリとくわえられた。
しゃぶられ、唾液まみれとなる指を引っ込めれば、また鼻先を私の首筋に埋めてくる。
「彼に殺されちゃいますよっ」
「そうだねぇ。というか、王以外の『クラビス』が、君と最後まですれば死んでしまう呪いがかかっているし」
「それは呪いと言うのですかっ」
というか、100人の村人たち相手に私はどんなことをしていたのかが気になるっ!
「本気で生き地獄。でも、君を抱けて、そのまま死ねるなら本望かも。自身の命以上に、君を愛したい」
「ダメですダメです。命は大切にっ」
そうして、私の体を大切にっ!
助けて欲しいと、チュウノゲさんにヘルプミーをしてみる。このまま、本物の彼の所に行ってくれば、いくらなんでも止めてくれるだろう。
「じゅうはちきんー、キャー」
「お子様には刺激が強すぎた!?」
チュウノゲさんが行ってしまわれた。
そうか。チュウノゲさんはモンスターでも、赤ん坊モンスターなのか。だったら、これを見せるわけにはいかないけど。
「ほんと、ダメですっ」
「え?外はダメ?」
「外でもダメ!」
「今日は快晴。雲一つない青空。爽やかな風が吹いて、どこからともなく鳥の声が聞こえるような穏やかな昼下がり。この陽気に皆が皆うたた寝してしまうような中で、バレるかバレないかの場所で楽しむ。こんな好条件な日はないけど?」
「私もうたた寝組に入らせて下さいっ!」
「大声出すと他の門番が来るよ。見せつける?」
「私の内に秘めた凶暴性を、あなたに見せつけましょうか!?」
ていやっと、引っ掻いてみる。
薄皮も剥けない。可愛い抵抗と称されたけど、門番さんは身を引いてくれた。
「そんなに威嚇しないでよ。子猫の威嚇みたいで、余計につつきたくなる」
「グルル」
「犬の真似をしても同じ。首輪をつけたくなる」
狂犬のフリもダメだった。
いいこいいこと撫でられる。
「本当にイヤですよ。いくらなんでも」
同じ姿でも抵抗がある。
門番さんとて私の性格を分かってくれているのか、ごめんねと謝ってきた。