風を浴びて
結局、たいした話もしないまま由奈は病室を出た。
エレベーターに乗りと、昨日の先生が一緒に乗り込んできた。

二人とも何も話さず、昨日のことなど何もなかったかのようだった。

ただ由奈は、扉の前に立つ男の背中をじっと見ていた。

男はそんなことなど気付きもせず、扉が開くと同時に歩いて行ってしまった。


…なんなのあの男…


「…あれが先生?」

「あれ、由奈さんどうしたんですか?」

「あ、こんにちは。いや、あのおと…先生初めて見るなと思って」

「あぁ、堺先生のことですか?最近来たんですけど、なんかスゴいらしいですよ!」

「そうなの?」

「脳外科の専門医で、あの若さで論文が評価されて前にいた大学病院では"教授"何て呼ばれてたみたいです」

「へぇ」

「論文だけはいっちょ前って先生、多いんですけど、あの先生は手術の腕もすごくいいらしくて、脳外科の手術であの先生に勝てる人はまずいないそうです」

「そんなにスゴいんだ」

「ただねぇ…あの先生、遠慮がなくて。デリカシーのないこと言っちゃうんですよ」

「…」

「それが原因で、他の先生と反りが会わなくて大学病院も追い出されたみたいですよ」

「そうなんですね」

「もしかして、あの先生になにか言われました?」

「いやいや、何も。ただ初めて見るから気になっただけですよ」

「何かあったら、すぐ言ってくださいね!私、由奈さん泣かす人許しませんから!」

「あはは、ありがとうございます。そろそろ行きますね!」

「あ、それじゃぁ」


由奈はそのまま仕事に向かった。


…そういうことね…
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