風を浴びて
石橋由宇は由奈の婚約者。
高校の同級生で、付き合ったのは27の時。

由奈が電車で痴漢にあっていたところを救ってくれたのが、由宇だった。

それから、ときどき会うようになり付き合うようになった。

2年が過ぎようとしていた頃には同棲し、3年目の時にプロポーズされた。

幸せだった。

その矢先の出来事だった。

プロポーズされた次の日、由奈の携帯がなった。


「あー由奈?もう家にいる?」

「うん、どうしたの?」

「そっか!俺も今から帰るから」

「え、それだけ?」

「へへっ、由奈の好きなもの買って帰るよ!じゃ」

「うん、わかった!気を付けてね」


それから、何時間かたって由奈の携帯がまたなった。
由宇のお母さんからで、その声は震えて今にも泣き出しそうだった。

"由宇が事故に遭った…"

血の気が引くのを感じた。鼓動が早くなって、頭の中は真っ白だった。
病院の場所を聞くと、取るものもとりあえず急いで部屋を出た。

どの道を通ったかも曖昧で気が付くと病室にいて、ベッドの上にはたくさんの機械が付けられた由宇がいて…

そのそばで、由宇のお母さんがお父さんに肩を抱かれながら泣いていた。


「…由奈ちゃん…ごめんなさい…こんなに…取り乱してて…」

「…いえ…」

「由奈ちゃん…大丈夫かい?」

「…あ…あの…由宇…ですよ…ね…」

「あぁ…」

「…なんで…」

「…信号無視をした車に…跳ねられたと…」

「…そう…ですか…」

「…あと、由奈ちゃん…これ…」


由奈はお母さんから1本の花と小さな紙袋を渡された。中には、駅前に新しくできたお店で買ったシュークリームが入っていた。


「…最後に…電話…してたのが…あなた…だったから…」

「…えぇ…私の…好きなもの…買って帰るって…」

「そうか…」


それを聞いてお母さんは泣き崩れ、お父さんはお母さんをしっかりと支えていた。
その姿に由奈はたまらなくなり、病室を出た。
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