風を浴びて
病室を出ると、向かいの椅子に座り携帯で話す女がいた。

「…でさ…うん…ヤバいマジで入りづらいんだけど…いやいやめっちゃ泣いてるし…うん…うん…」


由奈はこの女が車の運転手だとすぐにわかった。
その腹立たしい態度に、キレそうになるのをぐっとこらえた。

そんな由奈に気付くことなく、女は携帯で喋り続ける。


「…だからさ…うん…えー私、務所はいんのかな…えーやだし…は?裁判?そんなんあるの?…めんどくさ…」


事故をした本人とは思えない言葉に、由奈の肩震え出す。
そんなとき、携帯で話す女と由奈の目があった。


「…私がひいたんだけどさ、マジ可哀想なんだけど…あははは」


気付くと由奈は女の前に立ちふさがっていた。


「…あんたのせいなのよ…」

「は?何あんた」

「あんたのせいだって言ってんだよ!」


そういうと、女を立たせ壁に追いやった。
女は訳がわからないというような顔をして、由奈を睨み付けた。


「意味わかんねーし、あんたなんなの?」

「あんたがひいた男の婚約者よ!あんた人ひいといてその態度はなんなの!?」

「仕方ねーだろ!事故ったもんは!それに死んでねーのにギャーギャーわめくんじゃねーよ!」


その言葉に由奈の中で何が起こったのかわからなくなった。

突き飛ばされ頬を押さえる女。
由奈の手はお母さんによって必死で止められ、白衣を着た男が手を降り下ろした状態で女を睨み付けていた。
気が付くと、周りにはお父さんにお母さん、先生と警察官らしいスーツを着た男が二人いた。


「君が逆の立場ならどう思う!!死ななかったのだからいいとそれでも言えるのか!!」

「…知るか…」

「知るかじゃない!!君はここの四人の人生を、たった一瞬で狂わせたんだぞ!!君がそうやって携帯で話していなければ、狂うことはなかったんだ!それがわからないのか!!」


黙り混む女を先生は叱り飛ばし、警察官二人もその様子をただ黙って見ていた。
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