風を浴びて
廊下を進むと、また先ほどの男とすれ違った。そしてすれ違い様に、今度は声をかけられた。


「献身的ですね」

「え?」

「あなたです。長い間目を覚まさない相手に対して、毎日欠かさずに見舞いに来ているのでしょう?」

「えぇ、まぁ…それが何か?」

「うーん…ちょっとよろしいですか?」

「え?あ、はい…」

由奈は言われるがまま、会議室のような部屋に連れてこられた。
男は座るようにと椅子をだし、由奈と向かい合わせになるように座った。


「あのー…私まだ彼の家族ではないので、医療的なお話でしたら、ご両親の方に直接お話になった方がいいと思うんですけど…」

「可能性は50%です」

「え?」

「仮に目覚めたとして彼の記憶が残っている確率です」

「どういう…ことですか…」


眉間にシワを寄せる由奈にその男はたんたんと続けた。


「脳に大きなダメージを与えられた今の状況で、目覚めた時にあなたの記憶があるという保証はないということです。それでもあなたはこれから先通い続けますか?」


由奈は一言"失礼します"とだけ言って部屋を出た。背中ごしに小さなため息が聞こえたような気がした。
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