風を浴びて
仕事も終わり家に帰ると、由奈はベッドに倒れこんだ。
あの男の言葉が頭をよぎる。


"あなたの記憶があるという保証はない"

"それでもあなたはこれから先通い続けますか?"


何も答えられなかった。脳にダメージを受けていると聞かされた時点で、記憶のことも薄々気付いてはいた。
それなりに覚悟もしてきた。


それなのに…


いざ先生から面と向かって言われると、今まで曖昧だったものがはっきりしたようで…

ただでさえやっとまた頑張ろうと思えたところだったのに、あの言葉ですべてが崩れてしまったような気がした。



「あの先生…なんなの…」


由奈は寝不足の頭を無理やり起こし、次の日もまた病院に向かった。
病室へ入ると、由宇の両親が来ており由奈に笑顔を向けてくれる。その笑顔も疲れきっていた。


「由奈ちゃん、いつもありがとね」

「いいえ。そんな」

「毎日お花も取り替えてくれてるんでしょ?」

「好きでしてることですから」

「早く目を覚まして、由奈ちゃんの花嫁姿見せてほしいわ」


由奈は照れ笑いを浮かべた。


「それじゃぁそろそろ帰ろうか」

「そうね。じゃぁ由奈ちゃんゆっくりしていってね」

「ありがとうございます。それじゃぁ」


両親が出ていき、由奈はいつものように椅子に座って由宇の手を握る。
由宇の顔を眺める瞳は、不安を隠せずにいた。
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