過保護な彼に愛されすぎてます。
「おかえり、奈央ちゃん。遅いからどうしたかと思った」
あまりのタイミングのよさに、少し驚きながら玄関の鍵をかけ、郁巳くんの部屋まで歩く。
空はもうすっかり暗くなっていた。
夏のむわっとした空気が、肩まで伸ばした髪を揺らす。
「少し残業だったから」
「本当に? 寄り道とかしてたんじゃなくて?」
すぐさま聞き返してきた声が怖く聞こえて言葉に詰まると、郁巳くんは「あ、ごめんごめん」と私を安心させるように笑顔を作る。
「別に、少し寄り道するくらい全然いいんだけどね。ただ、もし他の男と一緒だったとかだと心配だから」
私はもう二十二になる社会人だ。別に、男の人と一緒だったとしてもなんの問題もないのに。
純粋な心配とは少し違う気がしながらも、そこは流して「残業」と答えると、郁巳くんの瞳が私の表情を観察するように留まる。
それから、「そっか。こんな時間までお疲れ様」とふわりと微笑んだ。
「入って。今日は奈央ちゃんの好きな和風ハンバーグにしたから。もうできるよ」
「うん。……ありがと」
なんとなく緊張するのは、ここ最近ならいつものこと。
それが、部屋の中から流れてくるご飯のいい匂いにじょじょに消えていくのも、いつものことだった。