過保護な彼に愛されすぎてます。


『俺のこと好きだっていうならさ、これ以上俺を幻滅させないでくれる? 俺、女の子はなるべく殴りたくないんだよね』

心からの嫌悪感がにじみ出ている声と眼差しに、ああ、と思った。

笑顔が明るくなっただとか、たくさんの友達に囲まれているからだとか。
そんなのはただ、郁巳くんの外面がよくなっただけの話だ。

笑顔で交わすっていう世渡り術を身に着けただけ。

郁巳くんの傷は今も残ってる。
そう、強く感じる出来事だった。

あれから六年が経つけれど……今もまだ、郁巳くんの態度や言葉の節々に、傷のようなものを感じたりする。

「奈央ちゃん、なに考えてんの?」

表情のどこかから読み取ったのか。
観察力の鋭い郁巳くんに聞かれて、食事を再開しながら答える。

「昔のこと。郁巳くんの声変わりする前の声を思い出そうとしてた」
「ええー……それはなんか……嬉しいけど、恥ずかしい」

ふにゃりと形を崩した眉に、緩んだ口元。
そんな締まりのない表情でさえ、カッコいい。

いつだって周りに人を集めてしまう、キラキラした容姿と、同じようにキラキラした明るい性格。
そこには人間不信なんて言葉はあてはまらないけど……それは外側からじゃわからない。

あたたかいご飯を食べながら、「ねぇ。郁巳くん」と呼ぶと、すぐに優しい声が返ってきた。

「ん?」
「好きだって言ってくれる女の子にひどい態度とってない?」

高校のころの、あの感じで断っていたらさすがにいつかファンがいなくなってしまうし、第一、訴えられそうだ。

そう思って聞くと、郁巳くんはこどもみたいに口を尖らせる。

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