過保護な彼に愛されすぎてます。
「どうせなら本人に会って行けばいいのに。たぶん今は部屋にいると思うよ」
朝から午後まで仕事って言っていたけれど、真美ちゃんがここに来てすぐに、郁巳くんの部屋のドアが閉まる音がした。
だから帰ってきたんだろうなって思って言うと、真美ちゃんは首を振る。
「いや、いいよ。私、同じクラスだったの一年だけだし、親しかったわけでもないから」
「そう?」
「それに、有名人なんてなっちゃうと、気軽に話しかけたりするの、気が引けちゃうしね。
いくら同じ学校だったって言っても、もう住む世界が違うじゃん」
たしかにそうかもしれないなと思う。
私が気兼ねなく話せるのは、郁巳くんだからだし、他の友達だったら気が引ける。
「それより、なんか、芸能界の裏事情とか聞いたりしないの?」と、テーブルに身を乗り出した真美ちゃんに聞かれ、首を傾げた。
「私、あまり芸能界とか詳しくないからよくわかんないかなぁ……。郁巳くんも、自分の仕事の話以外はあまりしないし」
郁巳くんから最近された話と言えば、来週放送になるバラエティー番組に出演しただとかそんなところだ。
明るい性格を考えるとバラエティーに合ってそうだなぁと思ったけれど、本人はあまり楽しくなかったらしい。
『ああいうのはもういいや。なんか、やたら疲れる』と、言っていたのを思い出す。
マネージャーさんにも、極力バラエティーは出たくないってお願いしたって話だし、よっぽど嫌だったのかもしれない。
「そうなんだ。不破くん、雑誌とかでよく見るけど、撮影してると他のモデルさんと一緒になったりするんだろうし、すっごい目が肥えてそうだよね。
周り、綺麗な人ばっかだろうし」
ドーナツを食べながら言う真美ちゃんにうなづきながら、私もひとつ、ドーナツを手に取る。