過保護な彼に愛されすぎてます。
「手櫛でさっとまとめるだけだから奈央でもできるよ。
もし、シュシュだけじゃほどけてきちゃうようだったら、ゴムでまとめて、その上からシュシュつければいいし」
「なるほど……」
掃除するときとか、私も適当にひとつにまとめるけれど、そのときは大抵、黒いゴムで止めるだけだ。
その上からシュシュをつけるなんて発想はなかった。
驚きながら頷いていると、真美ちゃんが「そろそろ帰るね」と言った。
「あ、うん。ごめんね。忙しいのにわざわざとりにきてもらっちゃって。カフェオレとドーナツもありがとう」
「ううん。私が頼んだんだもん。それに、仕事の合間だったし大丈夫。今度はゆっくり会おうね」
「うん。下まで送る」
営業カバンを持った真美ちゃんと一緒に、玄関を出る。
真美ちゃんの仕事の愚痴を聞きながらエレベーターで一階まで下りてエントランスで別れて踵を返す。
そういえば、郁巳くん、帰ってきたみたいだったけど、お昼は食べたのかな。
ドーナツあまってるけど、食べるかな。
いつもだったら帰ってくるとすぐに私の部屋に来るのに、珍しく連絡すらしてこないな、と思いながら五階に上がり、玄関のカギ穴に鍵を刺して……ギクッとした。
鍵を回したのに、開いた音がしない。つまり、かかっていないってことだ。
鍵を持って外に出たし、かけたつもりでいたけど……真美ちゃんと話しながらだったし、うっかりかけ忘れた……?
そう考えたとたん、わずかな恐怖が浮かぶ。
留守にしたのは、ものの五分程度。その間、エントランスで誰ともすれ違わなかったし多分、大丈夫だ……大丈夫だろうけど……誰かいたらどうしよう。
わずかな不安を取り除けないまま、それでもドアノブを引いた瞬間。
玄関に、知っているスニーカーを見つけて驚くと同時に、ホッとした。
郁巳くんのスニーカーだったから。
顔を上げると、玄関に仁王立ちしていた郁巳くんが眉を寄せた。